「ゆりかごの巨人」:ダイジェスト版 /  From : 遠い海から来た「優衣」




ここでは人は7才で大人になり、およそ14歳で一生を終えるのです。

その澄んだ声がにごり始め、豊かな髪はそのままに、老いが異毛症を、脇の下や陰部、男では鼻や顎下にまで転移させると、嘆く間も無いうちに「御使い」が天から『お迎え』に来ます。


始まりの章


「僕は学校を卒業して就暇するまでの間、マールさんという考古学者の発掘の手伝いすることにした。天寿を全うするような歳になってもこんなことに興味を持つなんて学者って人は彼女に限らずよはど変わった人だなと思っている。 

ところで今、僕らが掘り返しているのが『禁じられた場所』だってことは最近知った。遥か昔に僕達の2倍ほどもある巨人がこの地球に住んでいたという話は子供の頃何度も聞かされた。神話なんかではいつもこんな風に書いてある。


” 巨人達は人をそそのかし、悪しき種を植えつけて天に反抗させようとしたので、神は使徒を遣わしてそれを滅ぼされた。


「一度は発掘の手伝いを辞めようかとも思ったのに、まだ言えずにいる理由。それってのがマールさんのまるで好きな人に熱でもあげるかの
ような、博物学への話振りが、それこそ遠い昔のように思える退屈な学校の先生の呪文とは違っていて一日が短すぎるせいだ。
最近、もしかしたらずっと昔には、お迎えの先があって、神話の世界の巨人達もまだどこか遠い所で生きているかもしれないって気がしてく
る。でもこんな事を話したら僕は病院に入れられてしまうだろう。それにマールさんには堅く口止めされている。もちろん僕もそうするつもりだけど」



 成人祭の日、ためらっていた主人公はついにあることを決意する。


「それが本当なんだろうか?確かめるたった一つの方法・・・それはマールさんと同じように〃死ぬことだ。特別な場合に赦される老化剤を使えばお迎えが来る事は知っていた。もちろん猛反対された。使徒庁にいる父が最終的に僕の側にまわってくれなかったら到底無理だったか もしれない。あの人は言ってた。

・・・他の生き物はあんなに衰えて死んでしまうのにどうして人間だけにお迎えが来るのかって、考えたことある?・・・

・・・でも声がおかしくなったり、病気になったりしますよ・・・

・・・それはどうかしら?・・・

「僕は怖くはない。なぜならもしかしたら、それが本当かもしれないって気がしてきたから。なぜこんなものを持っているのかという不思議は目の前の、誘惑には打ち勝てそうにない。のこされた香水の瓶に入った液体は、二人だけの秘密。死の先には何があるのだろう、そして僕らは無事再会出来るのだろうか?」


最終章要約

自作小説 「ゆりかごの巨人」最終章要約

<人の「創」りし「世」界 -人の創世->

<緑青の御使いの著述によるあらすじ、そして結末に起きた出来事>

人が7歳で成人し、14歳で天’に召される世界。


学校を出て就職するまでの間、マールという名のある老考古学者のアルバイトをすることになった主人公はある日その老婦人からこの世界の秘密をほのめかされる。それはかつて人間はお迎えの先を生き、事故によるもの以外に「本当の老い」による死というものがあったこと、 
そして神が遣わした使徒により滅ぼされたという人の二倍の大きさを持っという巨人たち、それこそが本当の大人であるというものだった。彼はその謎を確かめるべく、周りの反対を押し切って「老化剤」を使って14歳になることでお迎えを受けることを決意する。


そう、彼は彼女の話を確かめるために産まれて初めての、そして最大の嘘をついたのだった。
 

彼女からもらった薬により、彼は記憶を奪われることなくお迎えを受ける。

そして示しあわせたとおり彼女との合流場所に向かうのだった。

その世界で彼は使徒は「人」であり、神は人のかたちをした異形のいきものであったことを知る。

マールの工作は感づかれ、彼女と引き離された彼はこの世界の住民として生きる為の「試練」を受ける。

それに耐えられない「人」は神の子、つまり使徒となることを赦されず失敗作として7年間を知育の粘土(神々の愛玩動物)として、その後彼の世界にはない「安菜死」を受けることになるのだ。

彼は試練に失敗した。しかし処置の寸前にマールによってからくもその領域からの脱出に成功する。

彼らがたどりついた惑星、それは滅ぼされたはずの巨人と人間が「共存」する世界だった。そしてこの世界では成人祭を過ぎた筈の彼も巨人達にとっては少年と呼ばれる「子供」でしかないのだ。

彼はこの世界に溶け込もうとする。しかしこの世界の「巨人達」も「子供たちと呼ばれる人間たち」も彼にとってはあまりにも強烈で野蛮な存在に思えた。

だがなによりもショックだったのは仔にとって「彼女」が「マール」という偽りの名「コードネーム」をもち、巨人達の世界を再び神のものから取り戻す為に働くエージェント、彼の世界に送り込まれる為に訓練を受け、人工の肉体に移植された成人、この世界でいう「少女」という段階の肉体を持つ子供であるという事実だった。巨人達は彼に神々と戦争というものをしていると告げる。そこでは事故でもないのに命が他の命の意思によって奪われるのだ。彼にはそれがどんなものか想像できなかった。


そして大人と呼ばれる巨人達は彼にこの世界のことを伝えてもらうためにマールを護衝に彼を元の彼の世界に帰すことを決める。しかしそれは巨人達の戦局を有利に挽回する為の道具しかなかった。
再び神々に捕まったカレは、そこで衝撃の事実を知ることになる。

彼がお迎えを迎えることにただ一人理解を示した彼の父は使徒庁に勤めていた。そして彼の父は巨人達の世界から送り込まれた「不純物」を取り除くために犠牲者を必要としたということを

「留守を護る者との対話」


「ちょっと違う、聞いたんだ緑青の御使いさん、こっちにいくといいんだって」
−何か違う、いつもと−
 その勘は正しかったが、マ−ルは、そしてに−なもそれに従うのを賢明とした。
「ここは静かだから、ここで話そうね」
「留守を護る者!」
「そう、今この仔の器官を借りてみた。私の意識は彼にも伝導する。それ故、双方にわか
るようにこの仔の思考準位で話そう」
「なぜ生かしている?」
 彼の周りに黄色いとうもろこし草の畑、そして川岸に彼はその「小さな」足を浸した。
「この水、冷たくて、気持ちいい。巨人さんって、難しいことを自分でもわからずにいる
から、呪文を使ってはなしをするね。だからこの仔のことばで話すよ。君は価値のある生
き物だから、わかるね?期待しているんだよ。次なる段階になれるかもしれないから、巨
人たちのように感情の鬼に騙されずに今ここで話を聞いてくれるから」
「あなたの名前の由来を聞かせて頂けるかしら」
 その生き物、ニ−ナの体を借りたそれはちょっと首をかしげる動作をしたが次に川辺に
座るよう合図した。
「ここで構わないわ」
「君が立ったままでは、こっちはずっと上を見上げたままだよ。僕は未熟な御使い達と違
って何も企む必要はないんだよ。もし君が魅せられたとすればそれは君の内なる力だ。ち
ょっと難しくなったね、ん−、そのままでいいよ。これを見てもらえる?」
 彼が小石で円を描くと切り取られた空間のそのスクリ−ンが星空を写した。
「昔、バビロニアとかいう所に住んでいた巨人たちは地上の王様のほかに天空の王様がい
て、それが本当の王様だと考えてたらしいね。それがおかしいんだ、後の世の人達は天空
の王様が数千年や数万年も地上を治めたと記録に残したのを発掘して、こんなのでたらめ
だと言ったそうだよ。でもそれはちょっと勘違いしてる、僕らが君たちの成果を見るため
に戻ってくるのにそのくらいかかるんだ。もっとも変化がなければ次の候補へ行くけど」
 彗星のような軌跡がある惑星から出て動き出し速度を速めると、そのスクリ−ンの星た
ちの動きはほとんど光の輪のようになってしまった。
「時間収縮・・・」
「うん、そうだね。僕らは忙しいんだ。いくつもの星系を巡らなくちゃいけないんだから。
どうしてもここを見てまわるのが遅くなっちゃう、だからぼくのような留守番を残したん
だ。それももうすぐ終わる。だから君と話をする気になったんだよ。君は君の運命を見つ
ける意味のある生き物だから、僕はそれを見ていたい。だから見守らせてもらうよ」 
「それなら御使い達に手を出させないとは約束出来ないのね」

「約束ってのは相手を疑う生き物だけがすることだよ。それは出来ないね。それを君が突
破出来ないようでは君とここで話しているこのぼくの力がまだ未熟だということになる
だろうね。」
“ 彼 ”は空間に浮かぶそのスクリ−ンにそっと親指以外の四本をあて、軽く叩くよう
にするとそれは元の空間に戻った。
「聞きたいこと、あるんだよね?どうぞ」 
 その言動に再びマ−ルは警戒というものを思い出し、慎重に言葉を選びながらやがて質
問をした。
「どうしてこんなことをするの?」
「僕が次の段階に進むにはよき相手がいるから。もちろん僕は巨人たちが生き物を飼うよ
うに君たちと接することも出来る、でもそれではお互いの為にならないからね」

「それならあなたの御使い達がしていることは?」
「必要なことだから。御使いたちには巨人たちと同じように欲望を解放しているよ。でも
それは野放しじゃないんだ。少なくとも彼らは次なる段階に進むための意欲と彼ら自身が
どのくらい感情を放出したり、抑えたりするかの加減、呪文の言葉では“ 制御 ”とか
いうらしいね。それをを心におぼえているよ。でもそれを忘れた者がもしいるなら罰しな
きゃいけないだろうね。それは予定しているよ。」

「いつからここに?」
「前の留守番がどこかへ行っちゃって世話をしなくなったから僕が来たんだ。全くひどい
ありさまだった。しばらくみないうちに御使いはほとんど巨人たちと同化してしまってい
たし、火や水を使ったらしくてあの惑星は大分おかしくなっていた。だからそれはそのま
まにもう一つ造り変えたんだ。これでいいかい、ぼくはちょっと疲れちゃたんだ。そろそ
ろ帰るよ」
「ちょっと待って!」
 “に−な”は手を水に浸しながらマ−ルが視線を落として来たので少し留まった。
「僕の意識の一部はある一人の御使い達が担っているよ。話をしたければ見つけて欲しい
な。どこかにいるから」
「捜さないといけないかしら」
「いや、君が必要としているなら、彼らの方から話しかけてくるだろう。心配ないよ。 
それじゃあ。ゆっくりしていっていいよ」
 その意識はそれきりに−なの器官から離れていったようだった。マ−ルはしばらく先の
対話の内容を考えていたが、ふいにそれから引き戻された。
「この水、冷たいけどきれいだね、飲めるかな?あ、でも今の人誰?」
「聞いてた?」
「聞こえてた。あの人が神様なの?」
 マ−ルはちょっと考えたあと、「主語」を付け加えて言った。
「『私』はちょっと違うと思ってる。でも君がそう思うならそれでもいいのよ」
「じゃあ、僕たちがここにいてもいいって言ったんだね」
「でも、御使いたちはそう考えてないわ。そしてあの留守番の神様はそれには何もしてく
れない。だけど捜さなきゃいけない人がいるの」
「その人は知ってるよ、さっき聞いたよ」
 マ−ルはそこで初めて、彼が借り物になる前に話していたことを思い出した。
「どこにいるの?」


「ゆりかごの巨人」最終章

(場面:録青の御使いが二人を救助の後、神々(御使い達)の領域を脱出、舟の中での場面、彼らを救助した理由が善意ではなく実は録音自身の消したはずの憎しみという感情のの残淳、ありえない存在を確かめるためだったことが判る場面の直前)


緑青は告げた。

「知っておかないといけないこともあるんだ。正しくものをみることが必要な時のためにね」
「いやだ、聞きたくない」
「君はもう気づいているはずだよ。あの巨人の御使いもそして他の巨人達、いや僕たちの紅の君も含めて彼らが君をどう扱ってきたかをね」

 に−なの瞼は緊張のため小刻みに慕え、彼らに視線を合わせることは出来なかった。

「マールは君が役に立つとは思っていたが、君を見てはいなかった。」
「嘘だ!」
「1つ聞いてもいい?それならどうして君のおともだちが御使いとしてあの場所にいたのかしら?どんなに遅い仔でもお迎えまで九十月以上はかかるはずでしょう?きみが帰る所にきみを知る人は誰もいないわ」

 そこで彼はようやく動かしようのない事実を認めないといけなくなった。彼の足の震えは留まることを忘れ、彼の自重を支えるのに耐え切れずそのまま崩れるように座りこんだ。

「ま−るさん、本当なの?ひどいじゃないか!どうして本当のことを言ってくれなかったの?」

マールは答えなかった。
そしてただ話をした。
「あなたのお父さんは私をあなたたちの世界から追い出したかった。」

緑青の御使い「彼」が遮ったのはそれが初めてだった。

「君はやっぱりそんな存在だったんだね。マール」

緑青の御使いの中の「彼女」は続けた。

「誤魔化して逃げ込むっもりなの?私は違うわ。そう、に−な君、あなたのお父さあんは汚れたものを中に入れないためのおっとめをしていたのは知ってるわよね。だからあなたにそのおつとめを期待したの。でもそれは必要なことなの。誰かがしなくちゃいけないことだから」
 
それはマールには関係なかった。

「そんなのは方便よ」
「・・・はうべん?」

マールの反撃は混乱した「に−な」には理解できずその周辺を滑って流れていく。

「この人達だって私と同じよ、私を追い出すためにあなたを利用したのよ。」
「君のお母さんは、一度はかなくなりかけたことがあるんだ。それは本来運命だったんだけどね。それを君のお父さんは君のために私たちに願ったんだよ。どんな試練でも受けるからこの運命を変えて欲しいとね」


「本当にそうかしら?試練に耐えれば御使いになれるんじゃなくて?あなたのお父さんは御使いになれないかも知れないことを恐れていた。だからあなたを利用したのよ。弱い少年だったのね、あなたの世界の親達は。あなたの成人した姉兄達もたぶんあなたがお迎えに行くまでには何かわかっていたはずよ」


マールはに−なの沈黙の時間を測っていた。

一つ

一つ
 
そして三呼吸目に答えを与えるように話しかけた。

「こんな人たちを産み出したあなたの世界、そんな所に本当に戻るつもりなの?「私たち」の所がずっといい所だわ。これから君が因った時、いっでも巨人さんたち、それに私が聞いてあげる。だから帰りましょう」

 空気の流れは無かった、だが髪の先から顎の先まで綴られた稜線はそれでもかすかにまだ震えていたが・・・・自信という衣にさえぎられたたマールには未だ届くことはなかったのかもしれないし、届いていたとしてもそれは理解されてはいなかった。 に一なは唇を一度噛むようにしてこみあげてくるものを否定しようとしていたが、出来なかった。

それを今言わないともうずっとそのままのような気が、いやもっとはっきりした感触、まるでこれが全てを決めるのだとはっきりと、何度も告げられた、そのように思えた。

 そして今、それを発する恐ろしさに脅えながらも巨人の単語、に−なの世界にはない全てを決定的にする強い言葉を使った。

「ま−るさん、やっぱりぼくを‘「だまして」たんだね。」

 流れがまったく逆の方向に、すさまじい速さで変化していくのをマールは感じた。


「ぼくは、ま−るさんがぼくの気持ちをわかってる、ぼくをみていてくれてると思ってたから・・・ま−るさんはいろんなことを知ってたし、ぼくは楽しかったし、うれしかった。巨人さんのお星様についてしばらくしたころ、ま−るさんが小さい巨人さんの姿をした大人の巨人さんだってなんとなくわかってたんだ。でもそれでも、それでもね・・・」

 声はすんでの所で途切れそうになる、しかしそれは二人にはっきりと聞こえていた。

「それでも良かったんだョ・・・だってぼくの気持ちは本当だったんだもの。だからま−るさんもきっとわかってくれると思ってたんだ・・・」

緑青にとって今が彼らの想いを晴らす十分な機会であったが彼らは沈黙を守った。もちろんここでそれを持ち出すことは彼らにとって巨人のわざ、危険な感情領域に引き込まれることを意味していたし、彼らはそのことを怖れてもいた。だから代わりにこう聞いた。

「に−な君、君はここに残るか、巨人達の星に行くか、どちらかを選ぶことが出来るよ。もちろんここに残るならもう一度御使いになる機会を与えるよ」

しかし彼は別の答えを出した。

「ぼくは何もかも忘れたいんです。ぼくの想いでを全部消して下さい。そうして下さい。そのあと 「二人」で、マールさんと緑青さんで、はなしあってぼくを好きなようにしたらいいんです。ぼくはもういいんです」

−それではそうさせてもらうよ一


 緑青はマールが行動に出る前にその魔法の技を使って仔を眠らせて事を終えてしまった。そして意外にも自分と同じくらいの背たけのその少年を軽々と抱えると脇に寝かせた。


「又・・・眠ってしまった」
「あなたが眠らせたんでしょう、これで遠慮なく話が出来るから」
「そう、たぶんそうだよ」
「あなたにいい思いをさせるわけにはいかないという気がしてきたのね、マール」

「そんなことをすれば」
「わかっているわ。もちろん」
「ぼくが必ずしも次の段階に進む必要はないんだよ。他の御使い達か・・・あるいは誰かがたどり着いてくれればそれでいいんだ。わかるね、だから」
「あなたにはあの仔を領けるわけにはいかないの。あの仔を返すのが」
「僕の望みだから。君には好きにさせないよ」

 マールはそれ故行動に出た。
「ここには武器もあるわ、原始的なものだけど、ここならあなたもただの死ぬべき生き物になるはず、ためしてみる?」
「そんなことで自分を護っているつもりかい。可哀相に。では僕らも覚悟を決めないといけないね。いや、決めさせてもらおう」

 マールは二度、動き、目まぐるしいその動きは
一2度とも共かわされた一

「僕を覚えているかい、この姿の訳を」
 彼ら、その緑音は偽装を解いた。
「それは私!」
 緑青よりこまわりほど大きい巨人、そしてマールにはかつてあたりまえだった人間の大人の体、24のマールがそこにいた。多少やつれてはいたが、もしかしたらこの年齢のこの性別の大人の基準でもやや不似合いかもしれない腕から肩にかけての線、そして首筋に残る忌まわしき傷の後。

「この傷は君、いえあなたの母上から受けたものね?それがあなたの行動の理由の一部を支配している、いや、支配されているかしら?」

「覗くなんて!」
「いや、そのようなことはしていないよ。短い問だったけど、あの日のことはよく覚えているよ。察したんだ。ちょっと懐かしかったね。同じ巨人の血の半分を引くものとしてもね」
彼女たる緑青は続けた
「傷を消すことも出来たけどわたしはしなかった。この日のために、そしてわたしの試練のためにとっておいたの。覚えてる?マール‘‘さん竹私を連れて来たあの日のこと、私は覚えている、あなたに連れられて来た日のことを」

「・・・・」

                       
「・・・あの日のこと、貴女は覚えていてくれたんだね。僕は君と、そして僕の咎(とが)を受けるため、この体に移された。だから君の抜け殻はたった一つの大事な僕の体なんだ。元にはもう戻れないんだよ。処分されてしまったから。君に、そしてに−なや他の御使い達に見せてた姿は僕がこの行の次に約束されている姿、外部の者を不安がらせないための礼儀なんだ。御使いたちが主人としている者、留守を護る者以外誰も知らない孤独さ。それも試される内にあるんだよ。 けれども僕らの間にはそんな礼儀など何の意味もない、


緑青はいっきにそこまで二人に伝えると再び沈黙した。遠い月の影がその舟の中、庭に落ちている。

−わたしはこの日を待っていた−

 に−なは体を動かすことも目を開けることも出来なかったが彼らの心の動きは捉えていた。それはおそらく録音の意図したことに違いなかった。感触は現実となり、に−なはそこで自分がそのことを未だ否定しようと努めていたことをすぐさま浮かび上がった心のつぶやきによって思い知らされた。

・・・マールさんは・・・巨人だった・・・

 録青は続けた。
「この仔を巻き込むつもりはなかったわ、けれどもこれ以上犠牲者を出すのは「かなし」ことだか ら」
 マールはやっとのことで間を得た。
「聞いて、あの時」
 それは再び遮られた。
「命令に従ったまでということだろう、でも君は今またこうして犠牲者を増やしている」
「僕らは決して御使い達に洗脳されたわけじゃない、自ら御使いになったんだ。そんなことでは何も変わらないよ。君はこれからもずっと利用され続ける気かい?」

「”あなたたち”だって利用されているわ」
 マールの後一呼吸の後に「彼ら」は答えた。

「そうだとしてもあなたと同じよ。だけど違うの、私は構わないわ。次の何かを見ることが出来るのなら。それは意味のあることなの」

 に−なは言葉を発することが出来ずに二人の様子を見ていることしかできなかった。
「紅の君はいずれ僕と共に消去されるだろう、。それが御使い達の決定。この行動はたぶん留守の者と巡る神々の意思に反したことなんだ。向上の意思、それを条件に神々は御使い達に巨人たちと同じ心の要素を開放し、同時に試練を課しているんだからね。」

−そして今、「私」はそれを放棄してしまった−

「「私」はこの仔を必ず生きて帰してみせる、はっきりわかった、今何をすべきか」

「焦っているの?マール、“活きて”じゃなくて?あなたは巨人ですもの。そして「大人達」ですもの、わかっているはずよね。約束は人を擬うことから始まる巨人、あなたたちの悲劇だわ、駄目なの?いいえ、それは「私」がするから心配ないの」

 マールは彼らの真意を理解しかねた。なぜに今まで彼らが自分たちを連れ出したのか、助けてくれたのかどうかの動機を自分達の尺度、復讐のためという尺度で捉えながらも、それ以外の何かが残り、不思議と警戒の構えを鈍らせる。
「さようなら、マール、また会おうね」

 緑青、今や御使いという衣装を脱ぎ、本来の姿、否定のしようのない現実、今やマールという巨人の女であるもう独りのマールははたやすくマールの動きを封じた。

「あの日の後、君が僕にごめんなさいと言わなくても、そう一度でも思ってくれていたことは気づいていたよ。だけどね」

「やっぱり私には赦せなかったの、それがあなたの任務だとわかっていてもね。一言でも、ほんのかけらでもそれをあのとき思ってくれていたらこんなことにはならなかったのかも・・・でもやっぱり同じだったのかもしれないわ」

「だから。ありがとう、さよなら」

 に一なは本当に疲れて、何もかも投げ出してしまいたかった。そこで幕のような力に抗するのを止めると全てが暗転した。
 緑青はマールの瞳孔の変化を確かめて「彼ら」はその体をゆりかごに載せ、舟からいずこへと転送した。
「結局ぼくらは「命」を失うことになるね」

「これで「次」はもうないのね。なんだかわからないものが残ったまま・・・おかしなこと   
ね・・・なんだかわからないものが残ったまま・・・」

「なんといったらいいんだろうか?結局ただの「緑」だった。あの川の向こうの竹林は・・・ちょっと湿ってたけど・・・笹の葉じゃいい香りがしたよ・・・あのころ・・・」

「青の空へ帰れるかしら?とびっきりの。でも無理ね、たぶん。でもそう、・・・、まだすることがあるわ・・・」


何か・・・明るい・・・
 ニーナが目を覚ましてすぐは緑青の御使いの姿が見えず彼は自分一人のように感じたが気配が伝わるにつれ、自分がどこにいるであろうかを次第に思い出した。

「寒い・・・でもここにいる・‥あ?ま−るさん、マールさんは?」
「私がわかる?」

 こ−ナは“それ”の二乗の言い回しにようやく事態を理解した。

「いないの!なぜ?すぐに来るからって言ったじゃない?マールさん、すぐに来るからって!」

「ここには君のほかには私しかいないよ」

彼らは「仔」の世界の懐かしげに真似るかのようにうなづいてみせた。

「返してよ!すぐに戻してよ!・・・一緒に帰ろうって約束したんだ!」

緑青はどう答えてよいか少し思案したが途中でそれを止めた。

「マールは帰って来ない、私が、いや、僕が選んだ」

−ぼくにはただ−

「もどしてよ。戻せ!」

−君は本当は出来ない−

「返してよ、前の僕を返してよ・・・ああっ?」

「以前の君だけでいいのかい?それでは足りないよ。君には大事な人がいたんじゃなかった?
それはあの巨人たちのものだね。その鈍角の持ち物を使うのはよくない。それに
僕らはそれでは駄目だよ」

「皆、みんな、本当はぼくを、誰もぼくをみてはいないんだ!」

「それはあの巨人達の欺きという考え方によるものだね。それなら君はそう思っている?」
「それ以上、それ以上言うな!僕は」


 緑青はふと紅の持つあの不可思議な意識の理由を不完全ながら理解した。完全なる分離
も、いや完全な融合も所詮は虚ろな夢なのか。

「それとも違うのか?それこそが次のステージに、いや・・・答えはそれぞれの個によって異なるはずでは・・・/// わたしは今ニーナ君を自分に、いえ、自分たちに「けしかけ」ようと思った。なぜなの、もし君がなにかわかるのなら私に教えて・・・?」

 彼女と彼の彼らは彼の視線へと降りた。
 だがそれはに−なにはわからない。仔はこう息を切った
「そうか・・・君は僕を汚そうとしたんだ!僕の試練が足りないのを使って。だってそうじゃないか、そうすれば君は僕を好きなように出来る。そうなんだろ、僕を傷つけないで!もうイヤダ!」
 
その次の瞬間から少しの間。
 緑青は彼らの唇が少し血色を失い、微かに歪みながら震えている、その一点を見ていた。
「これが・・・抜いてみた。思ったより重いな。そうだ、ここは違うな。転送は出来ない」

 ニーナは辛うじて息をしている瀕死の巨人が見せたあの表情でその場に崩れ落ちるかの
ように座りこんだ。
 緑青はその時なにかの痛みを感じた。それが融合以前の記憶にある傷を受けた時の痛みか、それとも別のものかはわからなかったが、ただ今はそれが懐かしかった。

一僕は・・・越えてしまった・・・恐ろしい巨人。どうすれば戻してよ、誰か戻してよ! 
誰か・・・戻れなくなっちゃった。ああ・・・−

 緑青はそれが鳴咽と呼ばれるものであることを思い出した。もう随分昔のことを。
「僕らは今初めて自分が御使いだったことに感謝出来たよ・・・僕は君の過ちを僕らの過ちとして受け止めることが出来る。これは巨人達には耕しいことだよ。この鋭角の粗野な金属の重みは僕が受けた君の重みだ」
 彼女は彼の手をとり、しばらくそっとそれを撫でていたがやがてゆっくりと、息を微かに吐くような声で。
−あなたはこれからも生きていけるわ−
 そして彼である緑青は別れを告げるしかなかった。
「僕はこれで循環の輪から忘却の海へと環れそうだよ。今まで君がうらやましかったのかもな、そう、君のように一杯選べるものを持つことの出来た生き物が。」
「どうして?」
 彼女である緑青は続ける。
「私と僕は遺伝子提供者であるヘカリィとトウールの申し仔さ。どちらでもないんじゃなかった。どちらでもあるんだ。でもそれは写しではない、僕という新しい「命」だった。だから今ぼくらの願いを行える、それは苦しみじゃない。君のおかげだ。ありがとう」

「僕のせいなのに?」

「そうなんだ。だから君は帰ることが出来る。きっと何か君だけの、けれど皆持つかもしれない何かを見つけられる。だから僕も加えてもらっていいかい?」
「君には生きていて欲しい」
「だからあなたの好きな人にも生きていて欲しいと私は願うの。」
 
この瞬間、緑青の使徒は何かを準備し終えた。
「ちょっときゅうくつかもしれないけど・・・これが君の機会だ・・・・・・///そしてこれが私と僕との最初で最後の機会よ・・・」

−マールにはあれしか方法がなかった。生きていて欲しいんだ一

「そしてあなたにも、に−な君・・・私たちの次の機会を全て君の想う人に譲ることにしたわ、だから」
「人が魔法を使えるのは一度だけだから、僕らはわがままを使わせてもらったよ。そして僕らが出来る全部の力で君の幸福を願う魔法をかけた。君ならきっと・・・そして僕らのことも忘れないで」

 気がつくとに一なは何かずっと昔に覚えがあったような気がする何かにいた。
彼の峻の開いた先に遠くなっていく舟の姿があった。 彼女と彼はそのままこ一ナにさよならしたのだ。 それきり、視界の外で花火のような光のカーテンの粒子が彼の瞳に花火のように像を結
んで。 次第に細く小さく消えていった。




・・あの御使いは他のものの上昇を阻害する、だから浄化したわ・・

・・同行していた被験体にはまだ可能性があったのだが・・

・・所詮完全体ではない。我々はいくらでも仔達を待ち、試すことが出来る。次の傑作に期待しようではないか・・


彼ら神々、と御使い達、そして妖精達が呼ぶ「生きもの」は、彼の離宮に赴く。


「今回の周期ではいくつかの収穫があった。最後に廻った‘ さ ”系の銀河の4つ日の星系では異なる系、気体系生命体との友好的な交流に成功したよ。彼らは有望だね」

逆に言えば有望の数倍、いや数十倍の失敗や相手側の未熟があることになる。しかし彼らにとってそれは問題とはならなかった。わずかでも可能性があればそれで成功なのだ。

帰還した彼らは留守を預かっていた神の子に聞いた。
「どうだい、君の収穫はあったかな?」
「収穫?」
 
神々と呼ばれる一団は、留守をしていた者にそう聞いた。

「いや、今はまだだよ」
「次の者に誰を選ぶかだけど、私たちからも候補はあがっているわ。」
 そう聞いた時、彼女は彼がわずかにそれを否定するかのような表示を見つけた。

「君は前任者のように留守を放棄したりはしなかった、だから後任者を選ぶことは可能なんだよ。さあ、我々と次の旅に出ようではないか」

「いや、後任はもう見つけたよ。ただ今少しかかるんだ。それが済んだらこちらから参加させてもらうよ」

「それなら君の意思を残しておくといいわ。私たちには君が必要だから」

彼の庭園、そこで彼はもう一度足の先を流れに覆していた。

そしてその像の世界の月が昇りきってしまうまでの半日もの問、彼らが良い々沈黙をもって彼の答えを待っている間中そこにいた。

彼はあの浅瀬にいてJ一丁岸から遠くそのゆるやかな流れを追っていた。

彼の身が岸に近くなると彼が選んだ意識の提供者の誰かの記憶から虫の声が聞こえた

「僕の心の一つであり独立した心だった者達を僕は消してしまった。これでいいと思っていたはずなのに、一つは哀れに悲しく・・・もう一つは暖かく寂しい」

「けれどもし、僕があの仔を後任に選んだなら、どちらを選ぶかはその仔のものになる。
だから、これでいいんだよね、僕の中の緑と青たち・・・・・・・」

彼は水浴びを終えて、神々と仔たちが呼ぶ集団の所に出向いた。

(かつて、マールに本当の肉体を奪われた緑青の御使いは、2人、マールとニーナに複雑な憎しみと愛情を抱きつつも、裏切り者として神々による除名と「消去」、墜落の御使いの汚名を受けながらも、自らの命をかけて、彼らを彼らの帰るべき惑星に戻した。しかし、脱出に成功したのは・・・)

「そしてただ僕だけが生きてる。故郷に帰れたとしても彼らが今の自分の姿を見たら巨人として消去されてしまうのだろうか。あの生き物たちがゆりかごと呼んだカプセルで目を覚ました時、声を出す力もなく、ただいいようもない不安と空虚に襲われた。これが悲しいというものなら、きっとそうなのかもしれない。ただ、僕は知りたかった、知りたかったんだ、あの人の本当のなまえを今でも。 これがあの巨人達の言っていた別の感情なのだろうか」

「知ってしまった。惜しいに似た悔しいという感情、これが僕らの世界では赦されない恐ろしいものだってことを。でも、もし無事に降りることができたら、僕は僕にしか出来ないことであの人と約束するよ。そして失った7年を決して・‥下に森が見える。そうか、これからは自分で「食べるもの」を投していかなくちゃいけないんだって・・・」



使暦時:37320時間(テラ暦で約7年)経過・・・

「大いなる神々より御使い達へ」

啓 示 書

使徒庁 (ヒ)−499003号啓示

一報告にあるいきものについて−

「我らの慈愛と汝らの佳き試練とするため哀れなる巨人の末裔を捕獲せよ。処遇は一任する。
ただし汝ら神の子に害を及ぼす時はそのあわれなるいきものの魂を血によって浄化のこと」

「なお、捕獲した凍結保存中の残り1体については汚染分岐点前につき再胎生させる
ものとする」

<以上>


一使徒庁未成人係調査官尋問記録ー


(この記録は本事件関係者及びあの「巨人」の親族が子孫関係者が全て昇天の後も部外秘とする。

なお被質問者は成人祭前2年5ケ月の未成人男子である)

「君に今から質問するが、その人のかたちをした「いきもの」はなんと言っていたのかね。」

「君のような(コ)と話ができたのでうれしいっていってたョ!」

「ほかにも会っている子がいるのかね?何を話していたかい?」

「巨人さんって子供のころからいろいろと落とし物をするから僕たちより心が不自由かもしれないんだって、だからつよいこころとただしいかどうかをたしかめるためのすなおなこころがいるって、でもそれはたいせっ、 そのことを、こうかい、は、してないって、いってた」

「誰かにだまされた・・・いや、だれかがうそをついたからとは言ってなかったかね?

「ううん、その人には感謝しているっていってた、巨人さん、こわくなかったよ」


<使徒暦2月30日(秋餐の曜日)決定>

捕獲した巨人については被験者(52560時間)の反応試験の結果をもって処分を決定する。


調査使徒 リニ・アンナス付記
(あのテラの低俗なる者達の暦で時間換算6歳前後である)

2月33日

「今日、修学旅行の最終日、首都見学の自由時間にいきなり呼び出された。
大事な試練だというのでみんなの中から私だけ先生に連れられてシトチョウの地下にある特別室に入ったら巨人のオスがいた。ずっと昔神様の使いが絶滅させたと言われてたのが1匹だけ生き残っていたと聞いておどろいていたら、しばらくこれと話をしなさいって先生は出ていった。
何か奇妙なことを感じたらブザーで係の人を呼ぶようにって。でもそう言われなければ本当に気を失いそうだったんだから」

陽は落ちかけてわずかに明けた窓にかすかに赤い解り返しが届く。

「その生き物はいい伝えはどは大きくなかった。それでも私よりふた回りはどは大きかったけど。私を見るなり去年13歳でお迎えになったおばあちゃんの話すような古い昔の言葉で何か叫んでいたけど、わたしにはわからなかった。 だから係の人には何も感じないって答えたんだけど」

暗くなり明かりをつけないと書けなくなったので彼女はそこで手を休めた。

ムリア(*)、あの生き物は確かそう私を呼んだわ−

それには確か忘れてはいけない何かの意味があったのかもしれない。
 
天井からファイバーを通して正午少し過ぎの大量の光を淑り入れた地下の施設は物の輪郭を危うくしていて、そこで彼女がダイヤルを回して少し光を落とした時、初めてその ’いきもの ’ 「人」のかたちをした「それ」にこう声を掛けていたはずだった。

「異毛症?肌の感じも声も違う。病気なの?それともそれが普通なの?」

何かわたし、ずっと昔、あのいきものに最後に会ってなにかしたような気がする、え?最後?それ何?−

何か言ってた、そう、 しんだら何も出来ないから生きてみるんだって。あのいきものがつれていかれた後はし−んとしていた。いなくなったあともずっとそのままのような変な気分がした

その時彼女は不思議な感覚を覚えた。いつの間にか置いていかれてしまったかのよう
な。

そして思い出したかのようにバックの中から何かの小瓶を淑り出してみる。

それはブザーを押すと後で叱られそうで部屋の隅でためらっていたその間でさえ、あのいきものが両手に乗せてずっと彼女を待っていた。 それで思わず受け取ってしまったのだった。

・・・ちょっとこぼしちゃった・・・
・・・この香り・・・
?・・・あれ、なんで泣いているんだろう、私・・

・・・なんで泣いてるんだろう・・・(;;)・・・・
                  




* ムリア: カスピ海方面のウラル語系方言で 「忘れてはいけない夢」という意味がある。





Back  Ground Music  in  ending  scene
物語の末尾に再生されたいのちがかつての子供から受けとったイメージの音楽


On hearing the first Cuckoo in spring 
「春、はじめてのかっこうのさえずりを聞いて」 (別名;「春を呼ぶかっこう」)




作曲:フレデリク・デイーリアス
    < Flederic Delius>


指揮:ダニエル・バレンボイム
演奏: イギリス室内管弦楽団